日本人の食事摂取基準 2015年版 生活習慣病の重症化予防について

この記事の続きになります。 このページでは、改定のポイントの一つである 策定目的に、生活習慣病の発症予防とともに、「重症化予防」を加えたことについて解説していきます。

スポンサーリンク

策定目的に、生活習慣病の発症予防とともに「重症化予防」を加えたこと

2015年版では、生活習慣病の発症予防だけでなく、重症化予防が目的に加わりました。 対象としては、健康な個人並びに集団。さらに高血圧、脂質異常、高血糖、腎機能低下に関して保健指導レベルにある者まで含むこととしています。

具体的にこの目標がどのような変化をもたらしているかというと、 本文中に生活習慣病の発症予防及び重症化予防の関連についてレビュー・検討が行われています。

それぞれの栄養素でどのような事が書き出されているか、簡単にまとめて書き出していこうと思います。

三大栄養素

・エネルギー

エネルギーの生活習慣病発症予防として、目標とするBMIの範囲が定められています。 詳しくは次ページにて解説しますが、目標を設定したもののBMIだけを厳格に管理するのではなく、あくまで生活習慣病予防の要素の一つであり、個々人の特性を十分に踏まえた対応が望まれるとしています。

bmi

また、重症化予防として、高血圧、高血糖、脂質異常の改善・重症予防に、減量や肥満の是正が推奨されています。

血圧正常高値の人では5~10%程度の減量、肥満者では7~10%程度の減量を達成・維持することが重症化予防の観点から望ましいようです。


たんぱく質

たんぱく質と発症予防の関連では、様々な研究がありますが結果が一定ではなく結論はまだ出ていません。

しかし、たんぱく質エネルギー比率が20%を超えた場合に、糖尿病発症リスクの増加や、心血管疾患の増加、がん発症率の増加、骨量の減少、BMIの増加などが考えられます。

系統的レビューではこれらの関連について明らかな関連を結論することができないませんが、 エネルギー比率が20%を超えた場合の安全性は確認できないと述べ注意を喚起しています。

重症化予防の観点では、CKD(慢性腎臓病)との関連について書かれています。


・脂質

脂質と発症予防の関連では、脂質エネルギー比率に加え、それぞれの脂肪酸についても書かれています。 非常に長くなるため、今回は脂質エネルギー比率についてだけ扱うことにします。

近年の炭水化物ダイエットの流行りを受けてか、低脂質/高炭水化物食や、高脂質/低炭水化物食の報告等が書かれています。

低脂質/高炭水化物食では、血糖、血中中性脂肪、HDLコレステロール値を減少させる事から、 少なくとも10~15%Eを摂取するのが適切であるとしています。高脂質/低炭水化物食では、低脂質/高炭水化物食に比べ、HDLコレステロール値が増加し、 空腹時TG値が減少するが、LDLコレステロール値が増加し、食後遊離脂肪酸や食後TG値が増加するとあります。

インスリン抵抗性が高い人等で、低炭水化物食が体重減少効果が強い等の報告があるようですが、 その他様々な報告から脂質エネルギー比率は30%未満が適切であるようです。

生活習慣病の重症化予防では、脂質の目標量を設定できる科学的根拠が十分でありません。 さらに、各疾患の原因により治療法が異なり、また薬物療法との関わりあいも複雑であり、 一律に設定することが困難であるため、重症化予防を目的とした脂質の目標量は設定されておりません。


炭水化物

炭水化物の欄では、食物繊維と生活習慣病との関わりについて詳しく書かれています。 食物繊維の摂取不足は、多くの生活習慣病のリスクになります。

一方で、大腸がんとの関連は研究結果が一定でなく、また糖尿病予防に関して食物繊維の摂取源が関わる可能性を示しています。


脂溶性ビタミン

・ビタミンD

ビタミンD不足は骨折の危険因子として有名ですが、その他にも様々な生活習慣病との関連が示唆されています。 しかし、これらについては科学的根拠が十分でないため、考慮されませんでした。


・ビタミンE

ビタミンEのサプリメントを用いた多くの介入試験の結果は、冠動脈疾患発症に対して有用であったとする報告、 全く効果が無いとする報告、さらにかえって死亡率を増加させるとする報告まで様々なようです。

動物実験データで、ビタミンEの過剰と骨粗しょう症の関連を示す報告もありましたが、臨床データの裏付けはないため考慮されませんでした。

・ビタミンK

ビタミンK不足は骨折のリスクを増大させることが報告されていますが、栄養素としてのビタミンK介入による骨折抑制効果については、十分な科学的根拠がないため 目標量を設定していません。


水溶性ビタミン

・ビタミンB1、B2、パントテン酸、ビオチン、ビタミンC

生活習慣病の発症及び重症化予防と関連する論文はなかったようです。

また、必要量以上の摂取が生活習慣病予防となる科学的根拠がないため、目標量の設定もされませんでした。

ナイアシン

重症化予防について、ニコチン酸のグラム単位の投与が脂質異常症や冠動脈疾患に有効であるという報告があります。

しかしこれらの治療に使用される量は耐用上限量を超えており、食事での範疇ではないため、目標量は設定されませんでした。


・ビタミンB6

ビタミンB6が大腸がんの予防因子であることが報告されており、ビタミンB6が大腸がんの予防因子になり得ると考えられます。

しかし、報告数が一例であることから目標量の設定は見送られました。


・ビタミンB12

高齢者では、胃酸分泌量が低下し、たんぱく質と結合したビタミンB12の吸収率が減少します。 さらに、加齢によるビタミンB12の貯蔵量の減少があるため、 ビタミンB12の栄養状態の低下と神経障害の関連が報告されています。

加齢に伴う体内ビタミンB12の貯蔵量の減少に備えるためには、若年成人からビタミンB12を6~10μg/日程度摂取し、体内ビタミンB12貯蔵量を増大させることが必要としています。

しかし、科学的根拠としては十分ではないため、目標量の設定はされませんでした。


・葉酸

葉酸摂取量と脳卒中、心筋梗塞などでは、少ないと発症率が上がるという報告がいくつかあります。そのため、葉酸サプリメントを投与する介入試験が相当数行われています。 予防効果があるとする結果を得たものも多くありますが、その結果は必ずしも一致していません。

また、介入試験と観察研究との不一致、結果の解釈など解決すべき点が多く、目標量は設定されていません。


多量ミネラル

・ナトリウム

高血圧症との関わりを見ると、一日の食塩摂取量を一日6gまで下げなければ有意の降圧効果は得られないようです。 また、欧米などでは、これよりも更に厳しい減塩を求める動きもあります。

食塩は胃がんとの関係もあり、多い食塩摂取が胃がんのリスクを増加させる可能性があります。

目標量は2010年版よりも引き下げられ、男性8.0g、女性7.0gになりました。


・カリウム

コホート研究のメタ・アナリシスでは、カリウム摂取の増加が脳卒中にリスクを減らしたという結果になりました。心血管病や冠動脈疾患のリスクには、有意の影響はありませんでした。

また、ナトリウム/カリウム摂取比が心血管病リスク増加や全死亡に重要であるという報告もあり、目標量が設定されています。 ただし、腎障害を伴うものは軽症であっても高カリウム血症のリスクがあるため、積極的摂取は避けるべきです。


・カルシウム

カルシウムと生活習慣病(高血圧、脂質異常症、糖尿病、CKD)の関連については、特に強い関連は認められていません。しかし十分なカルシウム摂取は、骨量の維持に必要であり、骨折の発症予防のために必要不可欠です。

カルシウムに関しては、推定平均必要量、推奨量が目標量に近いものと考えることができるため、 特に目標量は策定されませんでした。


・マグネシウム

マグネシウムの摂取量増加が、血圧の低下効果があるという報告があります。しかし、降圧効果を証明できなかったメタ・アナリシスもあり、 また介入試験の質に問題があるというコメントもあります。

マグネシウムの摂取量増加が糖尿病予防に効果があるという報告もありますが、研究の蓄積がまだまだであるため、さらなる研究結果の収集が必要です。 慢性腎臓病では、低マグネシウム血症の患者の死亡率が高く、腎機能低下速度も速いという報告があります。

しかし目標量としては科学的根拠が少なく、設定されておりません。

・リン

糖尿用予防の観点では、血清リン濃度の低下が悪影響を与えるという報告がある一方、糖尿病患者でリン濃度が高く、血清リン濃度が高いことが糖尿病や心血管疾患のリスクではないかという、逆の報告もあります。

高血圧との関連では、血清リン濃度が高いほど血圧が低下するという報告があります。

CKDでは、CKD初期からリンの負荷制限を行うことが好ましいという考え方があります。 しかしどの段階からどの程度制限をすれば良いかについては、科学的根拠は十分ではありません。


微量ミネラル

・鉄

鉄の過剰摂取が生活習慣病のリスクを高めるという報告があります。 一方、入院を要した心臓疾患患者においては、貧血が予後に悪い影響をもたらすと報告されています。

鉄摂取量の増減が生活習慣病の発症リスクに影響を及ぼす報告はいくらかありますが、目標量を設定するための情報は不十分であるため、設定されておりません。



・亜鉛

糖尿病患者への亜鉛サプリメントの投与により、血糖値の調節と糖尿病に合併する脂質異常症、高血圧、腎機能低下の改善が報告されています。

しかし、これらの研究での亜鉛投与量を日常の食事から摂取するのは不可能であるため、目標量は設定しませんでした。



・銅

銅欠乏は、貧血や高コレステロール血症やアテローム性動脈硬化症、リポたんぱく質の酸化を招くことが報告されていますが、 貧血を除いて統一した知見となっていません。

また過剰の銅は、酸化ストレス要因となり肥満や高血圧、糖尿病、心疾患、腎不全の悪化に関わると考えられています。

・マンガン

通常の食品の範囲内でのマンガン摂取量の増減が、生活習慣病の発症予防及び重症化予防に関連するという報告は見当たりませんでした。



・ヨウ素

閉経後の女性で、海藻類をほぼ毎日食べる集団は、週2日以下しか食べない集団に比較して、 甲状腺がん、特に乳頭がん発症リスクが有意に上昇している、という報告があります。



・セレン

血清セレン濃度の上昇が、糖尿病発症率の増加に関連することが報告されています。

・クロム

糖尿病患者へのクロムサプリメント投与が、 血糖値とヘモグロビンA1cの濃度改善をもたらす場合が多いというメタアナリシスがあります。

一方、糖尿病発症リスクが高いと考えられる人に投与した研究では、 クロムの効果を全く認めていません。 さらに、肥満も血糖値異常もない対象者にクロムを投与した研究では、クロムがインスリンの感受性を高めることはなく、むしろ感受性を低下させていると述べています。



・モリブデン

モリブデンが生活習慣病の発症予防及び重症化予防に関連するという報告は見当たりませんでした。


まとめ

さて、非常に長々と書きましたが、上記のように、 各栄養素と生活習慣病の関わりについて科学的根拠に基づいた報告がされています。

これらの記述は、2010年度版には無かったものであり、近年の生活習慣病問題に対応したものだと考えられます。

また、参考資料として、生活習慣病とエネルギー・栄養素との関わりも書かれています。

高血圧
脂質異常症
糖尿病
慢性腎臓病(CKD)