
こんにちは!今日の更新は、BMIについてです。
もうすぐ日本人の食事摂取基準2020年版が発表されますね。
日本人の食事摂取基準は、科学的根拠をもとに、日本人の必要な栄養素量を報告した文書です。
日本人にとっては非常に重要な文書で、管理栄養士のバイブルともいえるものです。
さて、そんな日本人の食事摂取基準の2020年版を楽しみに過ごしているのですが、食事摂取基準関連の話で紹介したいものがあります。
それは、日本人の食事摂取基準2020年版策定会の議事録です。
厚生労働省のホームページ上で、2020年版策定会の議事録が公開されていますが、そちらに書かれている内容が面白い。
ということで、管理栄養士として意外に思った話をひとつ紹介しようと思います。その内容とは、こちらです。
「標準体重=BMI22というのは実はあまり根拠がない」
こう書くとちょっと語弊があるかもしれません。どういうことなのか、書いていきます。
そもそもBMIとは
この話を書く前に、BMIについて知らない方もいるかもしれません。
なので簡単にBMIについて紹介しましょう。
BMIとは、”Body Mass Index(ボディマスインデックス)”の略語です。
体重と身長から算出される体格指数の一つです。
「体重(kg)/身長(m)2」という式で計算されます。
とても簡単に計算できるため、世界であらゆるところで使われています。
日本肥満学会では、このBMIが18.5未満を痩せ型、25以上を肥満としています。
また、標準体重(適正体重、理想体重とも)はBMI=22の数値で、この数値が最も理想的な体重であるとしています。
標準体重はBMI=22というのはあまり根拠がない?
標準体重がBMI=22というのは非常に広く一般的に用いられている値です。
公厚生労働省のホームページや日本肥満学会などの公的機関でも、BMI=22が標準体重としています。
栄養学の教科書などでも、BMI=22が最も病気になりにくい状態で、目標とする体重と書かれており、私自身も信じ切っていました。
しかし、日本人の食事摂取基準2020年版の策定議事録を読んでいたところ、意外な発言が。こちらの議事録中の、宇都宮一典先生の発言を引用させていただきます。
この会議が明らかにすべきだと思うのは、「標準体重」という言葉があります。これは言葉だけを発しているように見えます。標準体重、BMI22ということが暗黙の了解のように走っているのです。これに基づいてエネルギー設定をしているというのが、多くの学会の総エネルギー設定方法になっているのですが、標準体重22と決めた根拠というのはどこにもないのです。
また、会議の後半にふたたび議題に挙がっています。
1点、繰り返しであれなのですけれども、非常に大きな問題は、目標体重を今後どうしていくかということだと思うのです。標準体重22というのが非常に強く信じられている。これは1970年代から1980年代のデータなのです。そのときは1論文だけなのです。なので、それが現段階でひとり歩きしていて、厚生労働省のホームページにもBMI22が一番長生きしますよと書いてあるのです。エビデンスに基づけば、これはどんどん外れていきます。しかし、標準体重22でいろんなものが設定されているので、標準体重22を外すか、あるいは標準体重の定義を変えるかということは、非常に大きな社会的なインパクトがあるのです。しかし、できるところはここしかないかなという気もいたしますので、今回できるかどうかわかりませんけれども、十分ここで論議をすべきかなということを考えています。
今回の日本人の食事摂取基準2020年版策定にあたり、このような議論がありました。
私もBMI=22というのがあまりにも当然のように使われているため、特に根拠を確かめもせずそうなんだろうなとしか思っていませんでした。
しかし実際には、全く根拠がないとまでは言わずとも、話の広まり具合から考えると薄い根拠とのこと。
栄養指導でも、目標の体重をBMI=22の値を設定することがあるので、たしかにインパクトの大きい話です。
日本人の食事摂取基準2020年版の記載
このような議論もあり、日本人の食事摂取基準2020年版では、標準体重(BMI=22)について記載されました。このような内容です。
なお、現在、我が国で使われる標準体重(=22×[身長(m) 2] )は、職域健診の異常所見の合計数が最も少なくなる BMIに基づくものである。すなわち、30~59 歳の男性 3,582名、女性983名を対象に、健診データ10項目(胸部 X 線、心電図、上部消化管透視、高血圧、血尿・蛋白尿、GOT・GPT、総コレステロール・中性脂肪、高尿酸血症、血糖(空腹時、糖負荷後)、貧血)の異常所見の合計数をBMIで層別に平均し、BMIとの関係を2次回帰したものである。なお、この論文では、被験者集団の年齢範囲から、データの適応範囲を 30~59 歳と限定している。
BMI=22という値についての根拠と、引用元論文が示されています。
BMI=22の問題点
目標としてはそんなに悪くない値に見えますが、実際に活用するとなると問題点があります。
まず1に、研究の対象者が30~59歳の中年男女であること。若い人や高齢者は含まれていません。
また、上記の項目には、命に関わる大きな病気である、「がん」に関する項目が入っていません。
つまり、病気が少ない値ではあるかもしれませんが、もっとも死なない値かというと、そうとも言い切れないということです。
実際に、死亡率が最も低かったBMIの範囲はBMI22とは乖離がみられます。年齢別に示すとこのようになります。
18~64歳の間では、BMI=22の値も含む範囲の値で死亡率が低かったのですが、65歳以上の高齢者になるとBMI22.5~27.4の範囲が最も死亡率が低くなりました。
高齢者ではやや太っているぐらいのほうが、死亡率が低いということです。
まあもとの研究が、高齢者対象のものではないし、死亡率をみたものでもないし、このように乖離がみられるのは当然のことかもしれません。
しかし、もとの研究の内容以上に、標準体重(BMI=22)というのが広まってしまっています。
たとえば、私が見てきた方にもこんな方たちがいました。
BMI25を超えた高齢者の方や、その家族が、「痩せなきゃいけない」という思いにかられてしまう、という例です
BMI30や35などの高度の肥満ならともかく、BMI25をちょっとこえたからといって、高齢者がダイエットに励む必要があるかというと、難しいところです。
総死亡率でいえば、それぐらいの値がもっとも死ににくいといえます。
高齢者が亡くなるパターンとしては、さまざまな理由により食事が食べられなくなり、衰弱して亡くなるという例が非常に多いです。
元気に食事を食べられているのに、あえて制限し痩せていく事が長生きにつながるかというと、そうとも言い切れないでしょう。
BMIの数値にとらわれず、疾病や食事の摂取量、体重の推移など、複合的にみて考え、BMIの数値が参考程度にとどめておくべきです。
まとめ
標準体重がBMI=22というのは、根拠となる研究から考えると、過剰に広まりすぎているようです。
BMIは身長と体重から算出しただけの値で、筋肉量も反映されていません。
また身長というのは、年をとると縮んでいくのですべての年代に同じ値を当てはめるのも無理があります。そもそも、もとの研究が高齢者を対象にしていません。
あくまで簡易的に使える指標であり、体重管理における絶対の数値ではありません。
「BMI計算すると24だし標準体重から離れてきた。もうすぐ肥満になっちゃう…、痩せるべきかな?」
こんな感じの悩みもあるかもしれませんが、今までの体重の変化や、自分の筋肉量、年齢、疾病なども考慮し、総合的に判断する必要があります。
BMIの数値ばかりにとらわれず、参考程度に活用しましょう。
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